第111話 「鶯」って読めますか(1)

◆「鶯」と書いて何と読むかご存知か?
 バカにするなと言われそうだが、案外わからないって人が多かったりする漢字だ。下に「鳥」という字があるから、ある鳥ののことを現す文字であることには間違いない。だがおそらく(個人的な考えだが)世間一般的にはあまりメジャーでない鳥ではないかと思う。

 ヒントは春先になるとよくテレビなどでお目にかかる鳥だ。大きな鳥ではない。小さな鳥だ。体は薄緑色。「春告鳥」という別名もある。(その名前を冠した和菓子もある。)
鳴き方に特徴があって。一般的には「ホー、ホケキョ」と鳴く。小さな体なのに、その声は驚くほど大きい。

 答えは「ウグイス」だ。

 そろそろ梅雨が明けようとしているこの時期に、酷暑とも言えるような夏が目の前に迫っているこの時期に、どうして「鶯」なのだと思われそうだが、理由は簡単だ。僕が住むこの地域には鶯がいて、そこらじゅうで「ホー、ホケキョ」と鳴きまくっているからだ。

「春先のことを言っているんだろう?」

 そういう声が聞こえてきそうだ。しかし春先の話ではない。前述したとおり、もうすぐ酷暑がやってくるという今現在のことを言っている。

「こんな時期に鶯が鳴くのか?」

 鳴きます。思いっきり鳴いています。
 もちろん一日中鳴き続けいているわけではない。日中、不定期に「ホー、ホケキョ」と鳴いている。これを書いている今、暑いから部屋の窓を全開にしていることもあって、近所で鳴いているその声がはっきりと聞こえてくる。

「誰かが泣き真似でもしているんじゃないの?」

 そんな稀有な人間がいたらお目にかかりたい。
 芸能人だと「ぐっさん」こと山口智充さんの鳥の鳴き真似が有名だが一般人でそんなことをしている人間なんてたぶんいないだろう。仮にいたとしても日中むやみに鶯の鳴き方を真似して「ホー、ホケキョ」と口笛を吹いている人間なんて滅多にいないと思う。もちろん声をだして「ホー、ホケキョ」なんて言っている奴も、まずいないと思う。(いたら気色悪い!)
 正真正銘本物の鶯が鳴いているのだ、この時期に。間違いない。だって僕はその姿を何度も見ているからだ。

「では、あんたの住んでいるところは、そんなに田舎なのか?」

 都会か田舎か、と訊かれれば間違いなく田舎と答える。周りにはいくつもの山があって緑は潤沢だ。周辺には猪や鹿が生息していて数年に一度は何らかの被害が出ているらしい。そんな場所だから鶯だけでなく都会ではまず見られないであろう野鳥もたくさんいる。ちょっと足を延ばして大きな川に行けば白鷺みたいな鳥も偶に見ることができる。それくらい田舎だ。
 しかし信じられないかも知れないが、ここは大阪の中心地、例えばJR大阪駅辺りからだと最速で50分もかからない時間で着く場所だ。いわゆるベッドタウンであっちこっちに大きな住宅地がある。僕が住むこの田舎の街も、そのうちの一つなのだ。

 そんな田舎の住宅地だから鶯なんて鳥は当たり前のようにいるのだ。そしてそれは如月だけではなく、春本番の弥生はもちろん、桜舞い散る卯月も、そして新緑の皐月をも超え、更にはうっとおしい水無月から夏の入り口である文月になっても力強く鳴き続けている。

 鶯がこんな時期にまで鳴いているだなんて一般的には知られていないだろう。おそらく春先が過ぎれば消えてしまうか、鳴かなくなってしまうんじゃないか、そうでなくとも人間の関心からは綺麗さっぱり消えてしまう存在ではないだろうか。
 ところがどっこい、鶯は健在だ。この地域だけかも知れないが、相変わらず元気に「ホー、ホケキョ」と鳴いている。
 その声を実際に聞いてみたことが、おありか?

 鶯の鳴き声というのは本当に驚くくらいに大きい。ワンコの散歩をしている時などに僕はよく鶯に遭遇するのだけれど、頭上で電柱にとまっている鶯にいきなり鳴かれたりすると吃驚するくらいだ。よくもあの小さな体であんなに大きな声を発することができるものだと感心してしまうくらいだ。なかなかその機会はないと思うが一度経験してみて欲しい。たぶん最初は感動するんじゃないかと僕は思う。

 ちなみに世間一般では鶯の鳴き声は「ホー、ホケキョ」だろう。僕もここまで便宜上「ホー、ホケキョ」と記した。しかし実はこんなに大雑把ではない。「ホー、ホケ」までは、ほとんどその通りだと思うが「キョ」の部分は実は非常に繊細だ。「キョ」の一声なんかでは済まされない。細かい鳴きの二声三声、いやもしくは四声が複雑に入り混じって構成されている。残念ながらそれを僕が文字で起こすには力不足ゆえ不可能だ。実際に聞いてもらうしかない。
 更にはもう一種類の鳴き声がある。
「ホー、ホケキョ」の後、「ピー、ホケキョ」と鳴く。(「ピー、ホケキョ」もここでの便宜上の表記だ。実際はもっと繊細で複雑な鳴き声だ。)

 この二つの鳴き声の決定的な違いの一つは声域だ。
「ホー、ホケキョ」が低域であるのに対し、「ピー、ホケキョ」は高域にある。
 更には調も違って前者はほんの少し短調気味、つまりちょっとマイナースケールの物憂げな鳴き声なのだが、後者は長調、つまりメジャースケールの、ちょっと弾けた感のある鳴き声だ。
 もしかしたら一羽で鳴いているのではなくて二羽で鳴いているのかも知れない。

「あー今日も暑いなあ。こうも暑いと仕事に行きたくないよ、ホケキョ」
「寝ぼけたこと言ってないでさっさと稼いでらっしゃい、ホケキョ!」

 てな感じだろうか……。

(次回「第112話 『鶯』って読めますか(2)」に続く)
 
 
 
【2017年7月13日木曜日記す】

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