第107話 僕が中型二輪免許を取ろうと思ったワケ(2)

 バイクならこんなストレスを溜めることなんてないだろう。確かに雨が降れば困りものだけれど、その時に感じるストレスと、今この大渋滞の中で感じるストレスと、果たしてどちらのストレスの方が精神的ダメージが少ないであろうか。
 僕はいつの間にか車に乗ると、そんなことばかりを考えるようになっていた。
 毎度毎度渋滞に巻き込まれ、その間の時間を無駄にしているが、その累積時間って、今どれくらいになっただろう。
 車で移動すること、歩いて移動すること、そしてバイクで移動すること、それぞれのメリットとデメリットを、この頃の僕はよく考えるようにもなっていた。

 そんな頃、僕にその結論を出させることになった出来事が起こった。
 それは職場主催で行われた何かのレクレーション行事でのことだ。確か休日に皆でどこかに遊びに行ったのだ。
 はっきりした場所は覚えていない。どこかの駅の近所にあった駐車場でのことだ。その近辺が集合場所になっていたと思う。僕は電車に乗ってその集合場所に行ったのだ。
 到着すると上司や先輩、そして同期の同僚数人が来ていなかった。まだ集合時間にはなっていなかったが、次の電車の到着時刻からして、きっとみんな遅刻なのだろうと思った。車でここまで来ようとしているのなら、もっと遅くなるんじゃないかとも思った。目の前の道路はやっぱり大渋滞していたからだ。

 そんな時、複数のオートバイが大きなエンジン音と共に近づいてきた。一瞬僕は「暴走族か!」と思ったが、出で立ちはいたって普通のライダーたちだった。
 複数のオートバイが僕の目の前で停まった。250ccクラスのオートバイが3台と400ccクラスのオートバイが1台の合計4台だ。

「なんやねん、こいつら!」

 そう思った瞬間、彼らが僕に向かって手を振った。そしてそれぞれがエンジンを止めてヘルメットを脱いだ。
 上司、二人の先輩、そして同期の同僚だった。

「今日はツーリング日和だよ!」

 上司がおもむろに僕にそう言った。

「オートバイ、乗ってはったんですか?」
 思わず訊いた。
「うん。ここじゃあさ、普段は車なんて乗ってられないのよね」
 そう答えた上司の顔は涼しげだ。

「こんな日に車乗るなんてアホやで!」
「そうそう。オートバイが一番やね!」

 先輩が口々に僕にそう言った。

「お前もバイクに乗り換えや!」

 同期の同僚が僕を誘う。
 お前がオートバイに乗っているだなんて全然知らなかったと僕が言うと、「つい最近復活させたんや」と言う。何でも社会人になるまでずっと中型バイクに乗っていたらしい。就職して一度はやめたものの、こっちに来てその思いが再燃したのだとか。

 そうこうしているうちに出発する時間になった。僕は歩いて目的地へ向かわねばならなかったが、彼らは当然の如くオートバイに跨った。そしてそれぞれにエンジンをかけたのだけれど、その様を見て僕の中にいきなり、かつてのあの「ロード・パル」に出会った時、そして「タウニー」に出会った時の、あのワクワクする感覚が蘇った。

「いいなあ、これ!」

 思わず僕は同期の同僚に向かってそう叫んだ。

「もう最高やでぇ!」

 彼はそう言うとエンジンを切るやオートバイから降り、僕に跨ってみろと言った。僕はそんな大きなオートバイに乗ったことがないからと言って断ったのだけれど、それでも彼は「かまへんから!」と言って僕を促した。
 僕は彼に促されるまま、そのオートバイに跨った。

 でかい!

 そのでかさは「ロード・パル」や「タウニー」の比ではない。重量感も半端ない。ちょっとでも気を緩めると、そのまま左右のどちらかに倒れそうになる。よくもまあこんなでかいものを転がしているものだと感心した。
 だが不思議な感覚でもあった。まるでずっと前から自分の体がこの感覚を欲していたのだということがわかったような気がした。このままエンジンをかけて右手で握っているアクセルをブン回したいっていう欲求に駆られもした。でも残念ながら今の僕にそんなことができるはずがなかった。
 そのオートバイは、Kawasaki GPZ-400R……。
 そう、。あの「Ninja」だったのだ。
 黒いカウルで覆われたその車体は僕をアッという間に虜にした。

 一頻り感触を味わった僕がNinjaから降りると、同僚が跨り、再びエンジンをかけた。(もちろん後から知ったのだけれど、それは)水冷4気筒16バルブのエンジンだ。そのエンジン音の重量感と迫力はもの凄い。言うまでもなく「ロード・パル」や「タウニー」の比なんかではない。
 彼は僕を一瞥すると「先に行っとくでぇ!」と言って車で渋滞している道の側を信じられないようなスピードでかっ飛んで行った。
 すると彼に続いて上司がアクセルを回してオートバイを発進させた。上司のバイクはホンダのMVX250Fだった。(もちろん後から知った情報だ)
 更に先輩二人も上司に続いてそれぞれのオートバイを発進させた。ホンダのVT250Fインテグラ、そしてXL-250Rじゃなかったかと記憶している。
 彼らは先に走り出した同僚同様、車で渋滞している道の側を、やっぱり信じられないようなスピードでかっ飛んで行った。彼等には渋滞なんてものはないのだ。もちろん側道を信じられないようなスピードで走ることは危険極まりない。ちょっとでも車と接触すれば間違いなくオートバイの方が吹っ飛んでいく。
 でもそんなことはお構いなしだ。自分の走りの感性を信じてただアクセルを開き続ける。
 この時は僕にはそれが理解できなかったのだけれど、それから一年後、僕は彼らと同じことをすることになる。

 僕はこの時、実家からわざわざ乗ってきた軽自動車を手放すことを決めた。もちろんすぐにというわけにはいかなかったが、その決心が揺らぐことはなかった。

 オートバイさえあれば、あの渋滞から脱出できる。
 オートバイさえあれば、あの退屈さから僕を引き離してくれる。
 車じゃだめだ。もちろん原チャリもだめだ。

 オートバイじゃなければダメだ。

 これが僕が中型二輪免許を取ろうと思った理由だ。

 そして、免許を取ると僕はすぐにオートバイを買った。

 Kawasaki GPX-250Rだ。

 それについてはまた別の機会に語るとしよう。

 あの頃の僕にとっては、退屈でないのはオートバイだけだったのだ。
 
 


今からおよそ30年ほど前、某高速道路を愛車GPX-250Rで激走する若かりし頃の僕の雄姿(?)だ。

 
 
 
【2017年7月7日木曜日記す】

第107話 僕が中型二輪免許を取ろうと思ったワケ(2)” に対して 2 件のコメントがあります

  1. hosohito より:

    学生の頃、先輩に譲ってもらった「ヤマハ・SR400」。
    大学で知り合った友人3人と、
    いろんなところにツーリングした想い出を忘れたことはないです…。

    1. いくたしば いたる より:

      hosohitoさん こんばんは。
      コメントありがとうございます。

      >学生の頃、先輩に譲ってもらった「ヤマハ・SR400」。
      >大学で知り合った友人3人と、
      >いろんなところにツーリングした想い出を忘れたことはないです…。

      僕も色々なところにツーリングに行きました。
      今でもいい思い出として大切にしています。
      ヤマハSR400ですか。
      懐かしいですね。当時購入を検討したバイクのうちの一台です。
      先日、生産終了となることをニュースで知りました。
      長らく愛されていたバイクでしたが新しい排出ガス規制の施行により、やむを得ず生産終了になったみたいですね。
      併せてドラッグスターやセローも生産を終了するとか。
      かつてそういったバイクの名を当たり前のように見聞きしていた身としては本当に残念に思います。
      ちなみにSR400に関してはヤマハが後継モデルの開発に取り組んでいることを明言しているみたいです。

よろしければコメントなどを……