第9話 方向音痴

◆残念ながら僕は方向音痴だ。よく道を間違えるし、それは地図があってもそうなることが多いので家族から呆れられたりすることが珍しくない。
 僕自身、昔から何とかこれを直そうと思っていて、できるだけ頭の中で論理的に考えつつ目の前にある地図と頭の中に浮かぶイメージをリンクさせようとするのだが、僕の頭はどうもそこがうまく機能しないみたいで、自分ではベストマッチングと思った感覚であっても、それに従ってしばらく進むと違う方を向いていることを否応なく知らされる。つまり間違えた方向に向かっているのだ。

 これは例えば車を運転している際に起こるだけでなくて普通に歩いている時にも起こる。つまりそのことは方向音痴はシチュエーションを選ばないということを意味している。
 そしてその度合いもバラエティだ。ほんのちょっと間違っていた場合があれば、まったく逆方向に向かっていたという重度の場合もある。つまり方向音痴というものには、その度合いに安定したレベルなど存在せず、常にその都度状況に合ったレベルの間違いをしでかしてしまうのだ。不思議と言えば実に不思議であるのだが、とはいえそれこそが正しい方向音痴というものであろう、と僕は勝手に思っている。
 また、方向音痴は何も物理的というか現実的な道筋に対してだけに起こるというわけではない。いやこれがすべての方向音痴持ち(便宜上、方向音痴の人をここではそう呼称する)に当てはまるかどうかは定かではないと思うが、少なくとも僕が持つ方向音痴という特質(方向音痴が「特質」に値するかどうかはここでは考えないことにして、これまた便宜上「特質」とする)は精神的な側面にも多大な影響を与えてきたと思う。

「精神的な側面」と書くと、それは何のことかと訊かれそうだが、わかりやすい言い方をすれば、その一つとして「人生」というものが挙げられよう。
 人生というものは昔からよく「旅」というものにたとえられる。旅というのは、もちろん「当てのない旅」というものがあるものの、たいていの場合は目的地というものがあって、時間や費用、どんな手段を使うかなど色々と計画を立てた上で実行するものだ。それはパッケージ旅行のように細かな計画に沿って次から次へと移動する場合があれば、気ままにのんびりと移動していくという場合もあるだろうが、何にせよ移動して最終的には目的地に着くことを目指すものだ。
 人生もやはり同じようなもので、人間というものは老若男女を問わず夢見る将来に向かってあれこれ考え、悩み、そして準備して目的に向かって前へ前へと進むものだ。だから残念ながら方向音痴というものは、はやはりこういう場合もニョキニョキとその顔を現してくる。この方向に進みたいと思って、それに向かっていたつもりが、実は全然違う方向に向かっていて、気がついたらとんでもない状況の人生になっていたということが珍しくない。

 御多分に漏れず僕もそうだ。若い頃、今の自分がこんな状況下で生きているだなんて想像さえしていなかった。自分としてはもっと違う方面に進んでいたつもりだったのに気がつけば方向を間違えていたのだ。はっきり言って逆方向に進んでしまっていたと言っても過言ではない。
 車にナビゲーションシステムというものがあるように、人生にもそれがあったとしたらら、どんなに楽だろう。(この場合「ライフナビゲーションシステム」になるだろうから、車の場合に倣うとすると略称は「ラーナビ」もしくは「ライナビ」ということになるのだろうか?)

 例えば学生のうちに自分がなりたい職業と自分を取り巻く諸々の環境条件を入力しておいて、就活の時期に稼働させるのだ。するとラーナビからは岐点が近づく度に指令が出される。それは「この先、半年後に東京に異動しなさい」とか、「一か月後に婚活パーティーに出席して伴侶を見つけなさい」とか「一年後にXX商事に転職しなさい」といった具体的な指示なのである。そして人間はそれに従うだけで最終的には自分が夢見る状況に落ち着くのだ。これなら人生の方向音痴持ちでも心配する必要はないだろう。
 昨今のIT技術の目まぐるしい発展とAI技術の著しい進歩を考えると、もしかしたらあと50年もしないうちに、こういうシステムが本当に登場するかもしれないなどと思ってしまうが、果たしてそんなことが起こるかしら?

 そういった空想じみた話はさておき、僕は先日またしても長らくの間、方向音痴的失敗をやらかしていたことに気が付いた。
 自宅にいて、東日本方面に対する意識や西日本方面に対する意識が、実はまったくの逆、いや、まったくのトンチンカンな方角に長らくの間向けられ続けていたということがわかったのだ。
 まったく、僕はなんて方向音痴なのだろうと今更ながらに(自分の事ながら)呆れてしまった。しかも東西南北自体は正しく認識していたくせに、こういうことをやらかしてしまうから本当に最悪だ。もうこれは重篤な病気と言ってもいいかもしれない。

 誰か方向音痴をきっちり治す方法を知らないか?
 いや、そんな方法があるわけないか。だってそんな方法があったら、それはもう「ノーベル賞」ものだと思いますよ。いやホントに。
 
 
 
【2017年2月22日水曜日 記す】

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