第5話 古いカセットテープ(4)

◆1989年。僕はまだ27歳かそこらだった。
 2017年。今の僕は、その倍以上の歳だ。あの頃生まれた人間がちょうど今27歳くらいになるのだ。
 あの頃、自分がこんなふうになるだなんて想像だにしなかった。

 さて、この2本の古いカセットテープ、どうしたものだろう。他人に聴かせるにはあまりに恥ずかしい。正直なところ身内にだって聴かせたくない。もし僕が死んだ後に誰かに聴かれでもしたらと思うと気が気でない。
 となると自分の手で間違いなく処分しておくべきなのだろう。だがそれがまた躊躇してしまうから困りものなのだ。処分するのは簡単だ。テープ自体を引っ張り出して細断してゴミ箱に捨てれば済む。10分やそこらで済む話だ。だけど処分してしまうと、それはすなわち永遠に喪失してしまうということだ。仮にこの先、どうしてももう一度聴きたいと願うことがあっても、それはもう完全に不可能なことになってしまう。
 過去に僕は同じように死んでから人に見られたら恥ずかしいという思いから、当時流行っていた「断捨離」という言葉に乗せられたこともあって、若かりし頃から日記やら雑記の類を書きしたためていた数冊のノートなどを処分してしまったのだけど、それから暫く経ってからそんなことをしてしまったことを猛烈に後悔してしまった。自分は何てアホなことをしてしまったのかと相当落ち込んだ。本当に大切なものは失った時に初めてそうだったのだとわかるというこを身に沁みて知った。その過去の苦い経験を考えると、やはり躊躇してしまうのだ。
 困ったものだ。だが悩んだ末に、これらはまた収納ケースの中に戻しておくことにした。しばらくすれば僕はきっとまたこれらの古いカセットテープの存在を忘れてしまうだろう。そしてこれらの古い古いカセットテープは収納ケースの中で眠り続けるのだ。それでいいではないか。

 ちなみにこの度、カセットテープというものの保存力の高さに改めて感心した。40本のカセットテープの中には、僕が中学生だった頃のものもあったのだけど、当時録音していたものが40年以上経った今でもきちんと再生されるのだ。
 あの頃磁気テープは湿気のない所にきちんと保存しておかなければ10年くらいでダメになると聞かされていたように記憶しているが、どのテープもまったくと言っていいほど問題ない。プラスチックの収納ケースに無造作に入れ、それをクローゼットの中に押し込んでいただけなのにだ。このまま収納ケースに入れていたら、ひょっとしたらあと50年は大丈夫なのではないかと思うくらいだ。はっきり言って今のDVDなんかよりも長く保存できるんじゃなかろうか。

 というのも先日、数年前に焼いたDVDをPCで見ようとしたところ、エラーとなってしまい、中身どころかドライブとしても認識されなかった。念のために他のPCのドライブや外付けのDVDドライブでも試してみたが、結果は同じだった。

 聞くところによると現代においても重要なデータは磁気テープで保存されているそうだ。それを聞いて僕は「やっぱりな」と思った。

 このご時世、「残すならDVDじゃないの?」って皆さん思うだろう。コマーシャルでもDVDだときれいに残すことができるとか、永遠に残るとでも聞こえるような、そんなものをよく見聞きしたのではないかと思う。
 だが実際のところ、今でも本当にきちんと残さねばならないとしているものについては、そのデータを磁気ファイルに残しているそうだ。理由はDVDという記録媒体で何十年も保存することができたという実績がないかららしい。
 考えてみればDVDというようなものが世の中に普及してまだ十数年。つまりどんなに長くてもDVDでの保存実績は、その程度ということで、そんなものに貴重なデータの保存を任せられないということなのだろう。

 何だか笑える話ではないか?

 世の中には必死こいて昔の写真やら映像などをデータ化してDVDに焼き、「これで末長く保存し続けることができる」って安心した人がわんさといると思うけど、DVDやCDを盲信してはいけない。特に「50枚入り、1280円」といったような安物のDVD-RやCD-Rなんかはそうだ。単に置いていただけでも数年で経年劣化してまったく読めなくなってしまいかねない。
 脅かすつもりはないけれど、ずっと残しておきたいからと思って焼いたそのDVDは、もしかしたら10年も経たないうちにダメになってしまうかも知れないから、どうかご注意を。

 ちなみに僕は磁気テープであれDVDやCDであれ実際に保存できる期間なんてたかが知れていると思っている。もちろんHDDやUSBなどの媒体も同じだ。どんなに文明や技術が発達しても、結局のところ紙や木簡、石といったレガシーな材質のものには勝てないと思うし、何百年、年千年後にも残っているのは、やっぱりそれらなんじゃないかなって思う。
 
 
 
【2017年2月16日木曜日 記す】

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