第3話 古いカセットテープ(2)

◆古いカセットテープ、一本目。

 再生を始めるとスピーカーから突然「1981年……」という声が聞こえた。
 紛れもなく自分の声だ。1981年って、もう35年以上も昔ではないか……。
「俺は昔、こんな若々しい声をしていたのか!」
 突然耳に飛び込んできた懐かしき十代の頃の自分の声は、今の自分に大きな衝動を与えた。
 十代の頃の僕よ、五十代も半ばに入ろうとしている今の僕に、君はいったいこれから何を語るのだ?

 しばらくテープを回していると、やがて十代の僕はギターを弾きながら歌い始めた。曲は吉田拓郎の「準ちゃんの与えた今日の吉田拓郎への多大なる影響」だ。そう言えばあの頃、ボブ・ディランの「ハッティキャロルの寂しい死」という曲のメロディに乗せて吉田拓郎が自分の過去の、とある恋愛経験を歌うこの曲が好きで、自分でもよくこの歌を弾き語りをしていたことを思い出した。
 ということはきっとそうなんだろうなと思ったのだが、予想どおり曲の途中でしょぼいハーモニカの音が聴こえ始めた。

 当時僕はお金が無かったからブルースハープが買えなくて、仕方なく二段ハーモニカを吹いていたのだ。もちろんハーモニカホルダーも買えなかったから針金のハンガーを解体して自分でらしきものを作り、それに二段ハーモニカを固定して首にかけていたのである。幸か不幸か、その姿を映した写真の類はないから今となっては想像するしかないのだけど、おそらくかなり無様な格好だったんじゃないかと思う。

 その一本目の古いカセットテープは両面で60分のテープだったのだけど、他にも色々な歌(もちろん僕自身の弾き語りだ)が録音されていた。小室等の歌、ジョー山中の歌、その他わけのわからない歌など、中には今聴くと恥ずかしてく赤面してしまうようなものも録音されていた。それらは自分で聴くには耐えられるものの、他人、いや身内にさえ決して聴かせたくないものばかりと言っても過言ではなかった。よくもまあこんなくだらないものを必死で録音したものだと我ながら感心した、というか呆れてしまった。
 だがそれ以上に、この古いカセットテープから聴こえてくる若かりし頃の自分の声に、今の自分からはもう完全に消え失せてしまった十代の頃のあの何とも言えない瑞々しさが、本当にやけに眩しくて、その声の響きが耳に、そして頭に響くと何だかもういたたまれなくなってしまった。そして今の自分のこのみすぼらしく老け込んでしまった顔を見るに、マジで泣きたい衝動に駆られてしまった。

(次回「第4話 古いカセットテープ(3)」に続く)
 
 
 
【2017年2月15日水曜日 記す】

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